日本料理というと、魚や野菜、出汁を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、私たち「ますます増田」では、季節によって牛肉を使った料理もお楽しみいただいています。
その中でも大切にしている食材の一つが、とちぎ和牛です。
「栃木和牛」ではなく、正式には「とちぎ和牛」。
店主の故郷である栃木県、そして日光とのご縁から、京都・西陣の日本料理店である「ますます増田」でも、毎月のようにとちぎ和牛を取り入れています。
しかも、ただ牛肉を焼いてお出しするのではありません。
季節の野菜や、その時期のおまかせコースの流れに合わせて、仕立て方を変えています。
炭火焼きにしたとちぎ和牛をすき焼きのように仕立てたり、生姜焼きにしたり、牛カツにしたり、時には麻婆風にしたり。
同じとちぎ和牛でも、料理の仕立て方によってまったく違う表情を楽しんでいただけるようにしています。
目次
そもそも「とちぎ和牛」とは?
とちぎ和牛は、栃木県内の指定生産者が育てた黒毛和種のうち、一定の高い肉質基準を満たしたものに与えられるブランドです。
栃木県では、優れた血統の黒毛和種を指定生産農家が一頭一頭育てており、肥育技術の研究や生産者の努力によって、全国規模の品評会でも高い評価を受けてきました。(栃木県公式ホームページ)
「とちぎ和牛」という名称が生まれたのは昭和63年。
長い年月をかけて、生産者、関係者、そして栃木県が品質とブランドを育ててきました。(栃木県公式ホームページ)
現在では、栃木を代表するブランド牛の一つとして知られています。
「A5和牛」とは何を意味するの?
「A5」という言葉は、和牛を食べるときによく耳にするかもしれません。
しかし、
「A5だから一番おいしい」
という意味ではありません。
牛肉の格付けは、大きく分けて「歩留等級」と「肉質等級」の組み合わせで表されます。
「A」は歩留等級。
「5」は肉質等級です。
つまり「A5」は、歩留等級がA、肉質等級が5という意味です。
肉質等級では、脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まりやきめ、脂肪の色沢や質など、複数の基準から評価されます。
そのため、A5という表示は肉質を判断する一つの重要な指標ではありますが、「A5=誰にとっても最高においしい」という単純なものではありません。
料理人としては、格付けだけではなく、その肉が持っている脂の質、赤身の味、部位、状態、そして料理との相性を見ることが大切だと考えています。
さらに厳しい基準を満たした「とちぎ和牛 匠」
そして、とちぎ和牛の中でも、さらに高い基準を満たしたブランドがあります。
それが、
とちぎ和牛「匠」
です。
現在の基準では、とちぎ和牛のうち、枝肉格付がA5で、さらにBMS No.10以上を満たしたものが「とちぎ和牛 匠」とされています。(栃木県公式ホームページ)
BMSとは、牛肉の「脂肪交雑」、いわゆる霜降りの入り方を評価する基準です。
つまり、とちぎ和牛「匠」は、単にA5というだけではなく、霜降りについても非常に高い基準をクリアした牛肉なのです。
とちぎ和牛そのものが厳しい基準を満たしたブランド牛であり、その中でも「匠」はさらに限られた牛肉。
非常に贅沢な食材です。
では、なぜ「ますます増田」でとちぎ和牛を使うのか?
理由の一つは、店主自身が栃木県日光の出身だからです。
そして、もう一つ大きな理由があります。
とちぎ和牛を扱う精肉店を営んでいる同級生がいること。
店主にとって、栃木の食材は単なる「地方の食材」ではありません。
自分が生まれ育った場所。
幼い頃から知っている土地。
そして、今でもつながりのある人たちが仕事として大切に扱っている食材です。
だからこそ、自分自身が納得できる品質のものを選び、京都のお客様に料理として届けたいと思っています。
これは「京都×栃木」をテーマの一つとしている、ますます増田だからこそできることだと思っています。
「とちぎ和牛 匠」だから、とろける料理にするとは限らない
ここは、私たちが特に大切にしているところです。
とちぎ和牛「匠」のような素晴らしい牛肉を使うと、
「とにかく口の中でとろけるように」
という料理を想像される方も多いと思います。
もちろん、脂が溶けるような食感は和牛の大きな魅力です。
しかし、私が料理人として大切にしたいのは、それだけではありません。
和牛本来の肉の味を感じていただきたい。
そして、
野菜と一緒に食べたときに、肉と野菜の両方がおいしい料理にしたい。
そう考えています。
そのため、ますます増田では、料理によって部位を選び、脂が多すぎず、赤身の味もしっかり楽しめるものを使うことがあります。
霜降りの量だけを競うのではなく、
「この料理には、この肉の状態が合う」
という考え方です。
和牛は「脂が多いほど良い」わけではない
和牛の魅力として、きめ細かな霜降りは確かに重要です。
しかし、料理人の立場からすると、脂が多ければ多いほど良いとは限りません。
例えば、季節の野菜と合わせる料理なら、肉の脂が強すぎることで野菜の繊細な味が負けてしまうことがあります。
一方で、程よく脂が入り、赤身の旨味もしっかりある牛肉なら、
肉の旨味。
脂の甘み。
野菜の香り。
出汁や調味料。
それぞれが重なり、一つの料理になります。
だからこそ、私たちは「とろける牛肉」だけを目指しているわけではありません。
その料理として一番おいしい牛肉を考える。
それが、ますます増田での和牛の扱い方です。
とちぎ和牛を毎月違う料理で楽しむ理由
ますます増田では、月替わりのおまかせコースをご用意しています。
だからこそ、牛肉料理も固定する必要はないと考えています。
例えば、
炭火焼きしたとちぎ和牛を、すき焼きのように。
炭火の香ばしさと、すき焼きの甘辛い味わいを組み合わせる。
ある月には、
生姜焼き。
生姜の香りを効かせ、肉の旨味を引き立てる。
また別の季節には、
牛カツ。
外側の香ばしさと、牛肉の味わいを楽しむ。
そして時には、
麻婆風。
和牛を日本料理とは少し違う方向へ仕立てることで、同じ食材でも新しい表情を感じていただく。
このように、季節の野菜やコース全体とのバランスを考えながら、仕立て方を変えています。
「日光和牛」という新しい魅力
そして近年、日光の牛肉にも新たなブランドとしての動きがあります。
私自身、日光出身ということもあり、日光という土地の食材を京都で紹介することには特別な思いがあります。
「日光といえば、観光地や自然」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、日光には豊かな自然環境の中で育まれる食材があります。
その土地で生まれ、育てられた牛肉を京都の料理人として料理する。
それもまた、私たちが大切にしている「京都×栃木」の一つです。
今後も日光和牛を含め、栃木・日光の食材を料理の中で紹介していきたいと思っています。
とちぎ和牛だけが和牛ではない
日本には、とちぎ和牛以外にも数多くのブランド和牛があります。
例えば、
神戸牛。
兵庫県産の但馬牛を素牛とし、厳しい基準を満たしたブランド牛として世界的にも知られています。
松阪牛。
三重県を代表するブランド牛で、きめ細かな肉質と脂の質などが魅力です。
飛騨牛。
岐阜県を代表するブランド牛で、豊かな自然環境の中で育てられ、柔らかな肉質と霜降りが特徴です。
そのほかにも、全国には米沢牛、近江牛、宮崎牛、鹿児島黒牛など、それぞれの土地で育まれてきたブランド和牛があります。
同じ「黒毛和種」であっても、血統、飼育環境、生産者、飼料、地域の気候などによって、肉の個性は変わります。
だからこそ、日本全国の和牛を食べ比べることには面白さがあります。
ブランド名だけではなく、「料理としておいしいか」
料理人としては、ブランド名だけで肉を選ぶことはありません。
もちろん、ブランドとしての品質は大切です。
しかし、最終的には、
「今日の料理に、この肉が合うか」
ということが重要です。
同じA5でも個体差があります。
同じブランドでも部位によって特徴が違います。
同じ部位でも、その日の状態によって仕上がりが変わります。
だからこそ、肉を見る。
触れる。
香りを見る。
脂を見る。
そして、どのように火を入れるかを考える。
それが料理人の仕事だと思っています。
炭火で引き出す、とちぎ和牛の味
ますます増田では、和牛を料理するときに炭火も大切にしています。
店主自身、長年炭火を扱ってきた経験があります。
炭火料理では、単に「強火で焼けばいい」というものではありません。
炭の状態。
火の強さ。
肉の厚み。
肉の温度。
脂の量。
焼く位置。
焼く時間。
そして、休ませる時間。
それぞれを見極めながら火を入れていきます。
和牛は火を入れすぎれば肉の水分が失われ、せっかくの食感や旨味を損なうことがあります。
反対に、料理によってはしっかり火を入れることで、香ばしさや味わいが生まれる場合もあります。
だから、
「何分焼けば完成」
と決めてしまうのではなく、肉の状態を見ながら火を入れることを大切にしています。
野菜と一緒に食べてこそ、ますます増田の和牛料理
私たちの料理では、牛肉だけを主役にするのではなく、季節の野菜と組み合わせることも大切にしています。
日本料理では、野菜や出汁の存在が非常に重要です。
肉の脂を野菜が受け止める。
野菜の香りを肉が引き立てる。
出汁や調味料が両者をつなぐ。
そんな一皿を目指しています。
だからこそ、和牛を食べ終わったときに、
「お肉がおいしかった」
だけではなく、
「野菜までおいしかった」
と思っていただけたら嬉しく思います。
京都で味わう「京都×栃木」の和牛
栃木県日光出身の料理人が、京都で日本料理を学び、京都・西陣で店を営む。
そして、故郷の同級生が扱うとちぎ和牛を、京都の季節の料理として仕立てる。
これは、全国どこでもできる料理ではありません。
栃木の食材を京都の料理として表現する。
京都の料理人として培ってきた技術と、日光で生まれ育った経験。
その両方を一皿に込める。
それが「ますます増田」の考える京都×栃木です。
とちぎ和牛を通して、栃木の魅力を京都から
私にとって、とちぎ和牛は単なる高級食材ではありません。
故郷につながる食材です。
同級生が扱っているからこそ、その仕事への思いも知っています。
だからこそ、京都のお客様にも、
「栃木にはこんなにおいしい牛肉があるんだ」
「日光にはこんな食文化もあるんだ」
と知っていただけたら嬉しく思います。
京都には京都の素晴らしい食材があります。
そして、栃木には栃木の素晴らしい食材があります。
どちらか一方ではなく、その両方を知っているからこそできる料理があります。
一皿の中で、和牛と季節を楽しんでいただく
「ますます増田」では、毎月変わるおまかせコースの中で、その時期に合ったとちぎ和牛料理をご用意しています。
毎月必ず同じ料理が出るわけではありません。
その月の食材。
季節の野菜。
コース全体の流れ。
そして、その時のとちぎ和牛の状態。
それらを考えながら仕立てています。
高級和牛だからこそ、ただ「豪華な肉料理」にするのではなく、日本料理の一皿としてどう楽しんでいただくかを考えたい。
それが、私たちの和牛料理に対する考えです。
京都・西陣の町家で、季節の日本料理とともに、栃木・日光から届くとちぎ和牛の魅力をぜひ味わってみてください。
ブランド名だけでは分からない、赤身の旨味。
ほどよい脂の甘み。
季節の野菜との組み合わせ。
そして、炭火による香ばしさと火入れ。
「とちぎ和牛」という名前の先にある、一頭一頭の牛と、生産者、そして料理人の仕事まで感じていただければ嬉しく思います。
ますます増田
住所:京都府京都市上京区旧大宮通中立売上る庇町187−1
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