京都の「いけず」とは?本当に意地悪なの?元祇園甲部芸妓の女将が語る、京都の言葉とおもてなし|京都・西陣「ますます増田」

query_builder 2026/08/26
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京都について話していると、

「京都の人は“いけず”って本当?」

そんな話を耳にすることがあります。

京都を訪れたことがある方や、京都に住んでいる方の中には、「いけず」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

「いけず」と聞くと、

「意地悪」
「嫌味」
「冷たい」

といった、少し怖い印象を持たれるかもしれません。

けれども、京都で長く育まれてきた言葉や、人との付き合い方を知っていくと、「いけず」という一言だけでは表せない、京都独特のコミュニケーションや人との距離感が見えてきます。

もちろん、京都の人がみんな「いけず」なわけではありません。

「いけず」という言葉も、使われる場面や相手との関係によって、冗談になったり、軽い皮肉になったり、時には相手への配慮を含んだ表現になったりします。

私自身、京都・祇園甲部で14年間、舞妓、そして芸妓として過ごしてきました。

花街では、お客様との会話や先輩方との日々のやり取りを通して、言葉そのものだけではなく、相手の気持ちを考えて言葉を選ぶことの大切さを学んできました。

今回は、そんな私自身の経験も交えながら、京都で使われる「いけず」という言葉と、そこから見えてくる京都の言葉やおもてなしについてお話ししたいと思います。



「いけず」とは?


「いけず」は、一般的には「意地悪なこと」や「意地悪な人」を表す言葉として知られています。

京都の言葉として有名ですが、実際には京都だけに限らず、関西で使われてきた言葉でもあります。

ただ、京都で語られる「いけず」は、単純に「相手に嫌がらせをする」という意味だけではありません。

親しい人同士で冗談めかして使うこともありますし、少し遠回しに気持ちを伝えるような場面で使われることもあります。

そのため、「いけず」という言葉だけを見て、

「京都では意地悪をすることを“いけず”と言う」

と理解してしまうと、その言葉の持つニュアンスを十分には捉えられないかもしれません。

誰が、誰に対して、どんな場面で、どんな表情や声の調子で言ったのか。

そこまで含めて、初めて意味が見えてくる言葉なのだと思います。



京都の「いけず」は、言葉の裏側にあるもの?


京都の「いけず」を語るとき、よく例に挙げられるのが、直接的には悪いことを言っていないのに、相手には別の意味が伝わるような表現です。

例えば、

「あんた、えらいかっこしてるなぁ」

という言葉。

文字だけを見れば、

「あなた、ずいぶん素敵な格好をしていますね」

という褒め言葉にも聞こえます。

もちろん、本当に褒めている場合もあります。

けれども、場面や声の調子によっては、

「ずいぶん派手な格好をしているね」

という意味を含んでいることもあります。

同じように、

「派手な服着てるなぁ」

という言葉も、単純に「華やかで素敵ですね」という意味なのか、

「ちょっと派手すぎるのでは?」

という意味なのかは、その場の雰囲気によって変わります。

また、

「賑やかでええなぁ」

という言葉。

これも文字だけを見ると、完全に褒め言葉です。

けれども、例えば近所で大きな声で話している人たちに向かって言えば、

「ちょっと騒がしいですよ」

ということを、直接言わずに伝えている可能性もあります。

つまり、

「賑やかでええなぁ」=本当に賑やかで良い

場合もあれば、

「ちょっと騒がしいですよ」

という意味を含んでいる場合もある。

ここが、京都の会話の面白いところでもあります。

もう一つ、よく知られているのが、

「ええ時計してはりますなぁ」

という表現です。

もちろん、本当に時計が素敵だから、

「ええ時計してはりますなぁ」

と言っている場合もあります。

しかし、もし相手との会話が長く続いていて、そろそろお開きにしたいような場面で言われたとしたら、

「素敵な時計ですね」

というだけではなく、

「もうこんな時間ですよ。そろそろお帰りになる頃では?」

というメッセージを含んでいる可能性があります。

つまり、

「時計を褒めている」のではなく、「時間を見てください」

ということですね。

ただし、これも「京都では必ずこういう意味」というわけではありません。

本当に時計を褒めている場合も当然あります。

大切なのは、言葉だけではなく、その場の状況を見ることです。

誰が言ったのか。

誰に言ったのか。

どんな表情だったのか。

声のトーンはどうだったのか。

そして、その前後にどんな会話があったのか。

それらを合わせて考えることで、初めて本当のニュアンスが見えてきます。



直接言わないことは、本当に「意地悪」なのでしょうか?


こうした表現を聞くと、

「それって、結局は意地悪なのでは?」

と思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、相手を皮肉ったり、嫌味として使ったりする場合もあります。

ですから、

「京都の遠回しな表現は、すべて相手への配慮です」

と美化することもできません。

一方で、すべてを直接的に言うことが、必ずしも相手にとって優しいとは限りません。

例えば、

「うるさいですよ」

と直接言う代わりに、

「賑やかでええなぁ」

と言えば、相手がその場の空気を察して、自分たちの声を少し小さくすることができるかもしれません。

「もう帰ってください」

と直接言う代わりに、

「ええ時計してはりますなぁ」

と言えば、相手の顔を立てながら、

「そろそろお時間ですよ」

と伝えられるかもしれません。

もちろん、相手がそのニュアンスを受け取れることが前提です。

だからこそ京都では、

「言う側の技術」だけではなく、「受け取る側の感覚」も大切になる

のだと思います。



なぜ「京都はいけず」と言われるのでしょうか?


「京都人はいけず」というイメージが広まった背景には、京都独特のコミュニケーションの文化も関係しているのではないかと思います。

京都では、相手に対して何でも直接的に伝えるのではなく、言葉を少し柔らかくしたり、相手に考えてもらったり、その場の空気を読みながら伝えることがあります。

大切なのは、

言葉そのものだけで意味を決めつけないこと。

「誰が、誰に、いつ、どのような場面で、どんな言い方をしたのか。」

そこまで含めて受け取る必要があります。

これは京都に限ったことではありませんが、京都ではこうした言葉の奥にある意味を大切にする文化が、比較的強く残っているのかもしれません。



京都では「言葉」だけではなく「間」も大切


私が花街で14年間過ごしてきた中で感じたことの一つに、会話では「言葉そのもの」だけではなく、間、表情、声のトーン、相手との距離感がとても大切だということがあります。

同じ言葉でも、言い方によって印象は大きく変わります。

柔らかく言えば気遣いになり、

冗談めかして言えば笑いになり、

少し含みを持たせれば、相手へのメッセージにもなる。

そして、何も言わないことが、かえって相手への気遣いになる場合もあります。

京都の会話には、そうした「言葉にしすぎない」部分があります。

だからこそ、京都の言葉を文字だけで見たり、標準語の意味だけに置き換えたりすると、

「これはいけずなの?」

と感じてしまうことがあるのかもしれません。



「察する」という京都のコミュニケーション


京都の文化を語るとき、「察する」という言葉がよく出てきます。

相手が何を望んでいるのか。

今、何を言うべきなのか。

逆に、何を言わないほうがいいのか。

相手の立場や、その場の空気を考える。

こうしたコミュニケーションは京都だけにあるものではありません。

けれども、京都では長い歴史の中で、町内の付き合い、商い、職人文化、そして花街など、さまざまな人間関係の中で、相手との距離感を大切にする文化が育まれてきたのではないかと思います。

すべてを言葉にしてしまうのではなく、相手が受け取れる余白を残す。

それも一つのコミュニケーションなのかもしれません。



花街のおもてなしにも通じる「相手を思う」ということ


私が舞妓・芸妓として学ばせていただいたことの一つに、

「自分がしたいこと」ではなく、「相手がどう感じるか」を考えること

があります。

お客様が何を求めていらっしゃるのか。

今は会話を楽しみたいのか。

静かに過ごしたいのか。

お話をされたいのか。

少しそっとしておいたほうがよいのか。

その場の雰囲気を見ながら、相手に合わせていく。

それは、現在「ますます増田」で女将としてお客様をお迎えするときにも、大切にしていることです。

一見すると「遠回し」に見える京都のコミュニケーションも、見方を変えれば、

相手との関係を大切にし、相手を不必要に傷つけないための配慮

と考えることもできるのではないでしょうか。

もちろん、それが常に正しいというわけではありません。

言葉を遠回しにすることが、時には誤解を生むこともあります。

だからこそ、言葉だけではなく、相手との関係や、その場の空気を感じ取ることが大切なのだと思います。



「京都人はみんないけず」は本当?


「京都の人は本当にいけずなの?」

と聞かれることがあります。

もちろん、そんなことはありません。

京都にもさまざまな性格の人がいます。

「京都人だからいけず」というのは、あくまで京都の言葉やコミュニケーション文化から生まれた、一つのイメージです。

むしろ、京都の人の言葉が「何を考えているのか分かりにくい」と感じられることがあるのは、言葉をそのまま受け取るだけではなく、

その背景や関係性、場の空気まで含めてコミュニケーションをする文化

があるからなのかもしれません。



「いけず」は京都文化を知る入り口?


「いけず」という言葉は、少し不思議な言葉です。

一見すると「意地悪」という意味なのに、そこから、

言葉遣い。

会話。

間。

人との距離感。

礼儀。

気遣い。

おもてなし。

と、さまざまな京都の文化につながっていきます。

京都には、白黒をはっきりさせるのではなく、少し余白を残す文化があります。

その余白を相手が感じ取り、考え、会話が続いていく。

そうしたところにも、京都らしさがあるのかもしれません。



日本料理にも「言葉にしすぎない美しさ」がある


実は、こうした京都の文化は、日本料理にも通じるところがあると私は感じています。

日本料理では、料理についてすべてを説明しすぎないことがあります。

器。

盛り付け。

香り。

季節の食材。

色。

余白。

料理そのものだけではなく、そこから季節や情景を感じていただく。

「これは春を表しています」とすべてを説明するのではなく、お客様自身に感じていただく。

そうした「余白」も、日本料理の楽しさの一つではないでしょうか。

もちろん、「ますます増田」では、お料理の背景や食材、調理法についても、できる限り丁寧にご説明しています。

特に海外からのお客様には、日本料理や京都の文化を知っていただくために、料理についてしっかりとお話ししています。

そのうえで、最後に何を感じるかは、お客様自身に委ねたい。

そんな料理でありたいと思っています。



京都のおもてなしは「言葉」だけではない


京都のおもてなしというと、丁寧な言葉遣いや美しい所作を思い浮かべる方も多いと思います。

もちろん、それも大切です。

けれども、本当のおもてなしは、言葉だけではないと思っています。

お客様が心地よく過ごせるようにすること。

その方の時間を大切にすること。

必要以上に踏み込まないこと。

そして、必要なときにはそっと手を差し伸べること。

そうした小さな気遣いの積み重ねなのだと思います。

これは、私が花街で学ばせていただいたことの一つでもあります。



元祇園甲部芸妓の女将として伝えたい京都


私は祇園甲部で舞妓、芸妓として14年間過ごし、現在は京都・西陣で日本料理店「ますます増田」を営んでいます。

芸舞妓の世界と日本料理店では、仕事の形は大きく違います。

けれども、

人をお迎えし、その方に心地よい時間を過ごしていただく。

というところには、共通するものがあります。

だからこそ「ますます増田」では、料理だけではなく、京都の文化についても、お客様との会話の中でお伝えできればと思っています。

「京都のいけずって、本当はどういう意味?」

そんな何気ない会話から、京都の言葉や文化に興味を持っていただけるのも嬉しいことです。



京都・西陣「ますます増田」で感じる、もう一つの京都


京都には、寺社仏閣や庭園、町家、舞妓・芸妓など、目で見て楽しめる文化がたくさんあります。

一方で、言葉の使い方や人との距離感、礼儀、気遣い、おもてなしの心など、目には見えない文化もあります。

「いけず」という一つの言葉も、そうした京都の文化を知る入り口の一つなのかもしれません。

「ますます増田」では、築100年以上の京町家で、大将が仕立てる月替わりの季節料理をお楽しみいただいています。

料理を味わいながら、

京都のこと。

花街のこと。

日本料理のこと。

季節のこと。

そんなお話も楽しんでいただけたらと思っています。

京都へお越しの際には、ぜひ華やかな観光地だけではなく、京都の人々が大切にしてきた言葉や暮らし、人との距離感、おもてなしにも目を向けてみてください。

そこには、知れば知るほど奥深い、もう一つの京都があります。

そして、もし京都で誰かに「いけずやなぁ」と言われたときも、すぐに「意地悪をされた」と思わず、その言葉の奥にあるものを少しだけ考えてみてください。

もしかすると、そこには京都らしい冗談や気遣い、あるいは言葉にされなかった小さなメッセージが隠れているのかもしれません。

それを想像するところから、京都の会話はさらに面白くなるのではないでしょうか。



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ますます増田

住所:京都府京都市上京区旧大宮通中立売上る庇町187−1

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